サルコペニア(筋肉減少症)という言葉が世間でも少しずつ広まってきていますが、サルコペニアには様々な原因・種類があります。
今回はサルコペニアの原因と発生機序について述べていこうと思います。
サルコペニアの原因
サルコペニアには、「一次性サルコペニア」「二次性サルコペニア」の二つに大別されます。
一次性サルコペニアは、「加齢性筋肉減少症」とも呼ばれ、加齢に伴って生じることがほとんどです。
二次性の場合は、高齢でなくてもサルコペニアは起こり得ます。また、一次性の場合でも二次性の要因が関与していることもあります。
サルコペニアの発症と進行については、様々な要因が関与してます。
要因を挙げると
・栄養(タンパク質)不足
・筋タンパク質同化抵抗性
・骨格筋幹細胞(サテライト細胞)の減少、活性化不全
・運動単位の減少
・神経・筋接合不全
・酸化ストレス
・炎症(TNF-α、IL-6↑)
・ホルモン(GH、IGF-1、DHEA)↓
・インスリン抵抗性
・ミトコンドリア機能低下
・アポトーシス
・ビタミンD↓、副甲状腺ホルモン↑
・筋肉血流↓
・未知の液性因子
これらの因子が複合的に関わるとされています。
サルコペニアの発生機序
EWGSOPの診断基準を用いたサルコペニア研究のレビュー論文では、
地域在宅高齢者:1〜29%
長期ケア施設:14〜33%
急性期病院:10%
にサルコペニアを認めています。
このうち、地域在宅高齢者におけるサルコペニアの主な要因は、一次性サルコペニア(加齢)と思われますが、長期ケア施設と急性期病院では、二次性サルコペニアの要素が大きいと考えられます。
加齢性サルコペニア(一次性サルコペニア)
加齢によるサルコペニアには、栄養状態や身体活動の低下、筋血流量の低下、ホルモンの関係、炎症によるものなど様々な要因が関与しています。
加齢に伴い骨格筋量は減少するとされ、その原因は筋線維数の減少と筋線維の萎縮と言われています。
萎縮する筋線維は、type1線維(遅筋、赤筋)よりtype2線維(速筋、白筋)が優位に萎縮すると言われ、運動ニューロン数も減少します。(合わせて運動単位の減少)
また、骨格筋の再生に必要な筋芽細胞に分化する筋衛星細胞(サテライト細胞)の数も減少してしまうため、筋再生能力が低下し、筋線維が減少すると考えられています。
さらに、テストステロン・エストロゲン・成長ホルモンといったタンパク同化促進ホルモンの血中濃度が低下し、炎症性サイトカインであるInterleukin-6(IL-6)やTumor Necrosis Factor-α(TNF-α)の産生が増加します。この結果タンパク異化作用が同化作用を上回り、筋線維の減少に繋がると考えられています。
活動低下によるサルコペニア
不活発、安静臥床、無重力などが原因で生じる廃用性筋萎縮のことを指します。すなわち、活動によるサルコペニアは廃用症候群の一部と言えます。
周術期で生じることが多いですが、術前や周術期以降でも閉じこもりの生活で生じる場合があります。
安静臥床により、筋肉量は1日に約0.5%減少すると言われます。
3日で1.5%、1週間で3.5%・・・と見る見るうちに筋肉量が低下し痩せ細っていきます。
医師による不要な安静指示でサルコペニアを生じてしまった場合、医原性サルコペニアとなります。不要な安静を避けてできるだけ早期から離床を促し、四肢・体幹の筋肉量を低下させないように注意しなければなりません。
また、廃用症候群の入院患者のうち88〜91%に低栄養が認められています。よって、廃用症候群患者は活動によるサルコペニアのみが原因ではなく、栄養や疾患によるサルコペニアも合併していることが多いと考えられます。
栄養障害によるサルコペニア
栄養によるサルコペニアは、飢餓によりエネルギー摂取量がエネルギー消費量より少ない状態が続き、栄養不良になることを言います。
飢餓状態が持続すると、肝臓に貯蔵しているグリコーゲンが枯渇します。
(グリコーゲンは身体を動かすためのエネルギー源となります。)
枯渇するとグリコーゲンの代わりに筋タンパクを分解し、それにより生じる糖原生アミノ酸からグルコースを生成しエネルギーとするため、結果として筋肉量が減少します。
また加齢に伴い、タンパク質摂取量が減少することや、タンパク同化抵抗性が高まることも栄養によるサルコペニアの要因と考えられます。
※タンパク同化抵抗性
:加齢とともに筋肉でのタンパク合成能が低下することにより、同量のアミノ酸が血中に存在しても高齢者の筋肉ではタンパク同化反応が低下していること。
疾患に伴うサルコペニア(カヘキシア)
疾患に伴うサルコペニアには、急性疾患・外傷(急性炎症・侵襲)によるもの、慢性疾患(慢性炎症・悪液質)によるもの、に分類されます。
急性疾患・外傷(急性炎症・侵襲)の場合、炎症の影響によりタンパク質の異化作用が高い状態であり、運動をしていなくてもタンパク質の分解が促進されています。
よって普段より高タンパクな食事を摂取することを推奨されており、この時期の高負荷な運動は禁忌となります。
異化作用から同化作用への切り替わりの目安としては、CRP:3以下が目安とされています。
慢性疾患において、
悪液質とは、並存疾患に関連する複雑な代謝症候群であり、筋肉の喪失が特徴です。臨床的特徴としては、成人の体重減少、小児の成長障害となっており、うつ病や吸収障害、甲状腺機能亢進症とは異なるとされています。
原因疾患としては、
悪性腫瘍、慢性感染症、膠原病、慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性肝不全などがあります。
一方、カヘキシアとは、悪性腫瘍、うっ血性心不全、末期腎不全などの疾患に付随して起こる急激な体重減少、強い低栄養状態です。多くの場合、疾患に関連して食欲不振、炎症の亢進、インスリン抵抗性、筋タンパク異化亢進などの代謝異常が生じ、その結果サルコペニアが起こると考えられています。
よって、慢性疾患(悪液質)によるサルコペニアとカヘキシアは類似性が高く、同義として捉えられていることが多いです。
これらの疾患によるサルコペニアにおいては、原因疾患の治療が最優先され、高負荷な運動は禁忌となります。
まとめ
サルコペニアの原因と発生機序についてまとめました。一次性、二次性に分類されますが、臨床上は複数の要因が重なってサルコペニアに陥ることの方が断然多いです。
対象者によって対応の仕方も様々なので、やはりその人の個人因子や環境因子も考えながらアプローチしないといけないですね。
本日は以上です、最後まで読んでいただきありがとうございます!
引用・参考文献:
リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル